あなたを忘れない

「強さ」とか「優しさ」という言葉を余りにも安易に使いすぎていないか。これは自分も含めてだが。本当の強さ、優しさを持つことはそんなになまやさしいことではない。そのような感慨を抱かせる本がある。
「わが人生の鎮魂歌(レクイエム)あなたを忘れない」(牧歌舎発行 星雲社発売)のことである。
十七人の著者が、それぞれ亡き両親への感謝、戦争、いじめ、うつ病、障害などを乗り越えた体験談、挫折を乗り越え今なお演劇への夢を捨てずにいることなどを語っている。選者は評論家の吉武輝子氏。
十七作のうち、独断と偏見で印象に残った作品を取り上げるのは憚りがあるような気がする。自分にはそんな資格はないのだから、と気恥ずかしさも覚えている。関心のある方には何を置いてもご一読を勧めたい。どの作品にも、嵐の後に雲間から指しこむ日の光のような希望がある。思いどおりにはならない人生。それを乗り越えてこそ真の強さと優しさがある、そんなことを改めて考えさせられた。こうした書がもっと世に出ることを願う。
(本の博物館館長代理・菊池道人)
*この記事はツカサネット新聞に掲載されたものです。