ラグビー道の本流とは
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この本を買ったのは2018年(平成30年) 11月23日。場所は秩父宮ラグビー場。
恒例の早慶戦の会場であった。その後はラグビーファンであった父親の仏壇に供えたままであった。
埃をかぶったこの本を手にとって頁を開きだしたのは2019年のラグビーワールドカップ開幕の数日前であった。
この物語の主人公、草野点(くさの・ともる)は中学時代はツッパリであったが、勉強はよくできたので福島県下屈指の進学校、積城高校に進学することになり、中卒でとび職になると誓い合っていた不良仲間に殴られた。
高校でラグビーを始める。ポジションはフッカー。フォワードの1列目中央であるが、花園大会出場は叶わなかった。
一浪後、早稲田大学商学部に入学する。すぐにはラグビー部へは入部しなかったが、たまたまラーメン屋で同席していた同学年のラグビー部員との奇縁で斯界の名門へ:。
そしてそれからは:。
主人公は優等生でもスポーツエリートでもなく、そうした若者が名選手になるまでのサクセスストーリーでもない。
そこに描かれるのは東伏見グラウンドでの伝統の猛練習の日々。早慶戦、早明戦の晴れ舞台にも裏方の一人として登場する。
作者の藤島大氏は主人公と同じく早大ラグビー部出身。その世界を知る人ならではの描写力で描き出された過酷な鍛錬にひたすら耐える物語である。早大のスポーツ有力選手への門戸が現在ほどは広くなかった1980年代には東伏見で汗と泥にまみれていた大半は主人公のような経歴の若者たちであった。
清宮克幸氏の解説が何とも趣深い。
「早稲田ラグビー道の本流を当時の匂いまで再現している」
もちろん、厳しい勝負の世界を勝ち抜くためには新たな創意工夫も必要なはずだ。
清宮氏は早大の主将としても監督としても、本書に描かれた「本流」とはまた別の「清宮流」を加味して大学日本一の栄冠を勝ち取った。
が、それにしても早稲田ラグビー道の本流は厳然と存在する。
この書を読み終えて評者はふと思った。「自分にとつての本流とは何か」と。
「てめえになんかそんなものあるわけないだろ」という声がどこからともなく聞こえてくるようなので、後はただ苦笑するばかりなのだが:。(本の博物館館長代理・菊池道人)