モスラのモデルはカイコ蛾 怪獣映画は文化だ! -

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ユニークな文化論、社会論の本がある。『モスラの精神史』(小野俊太郎著 講談社現代新書)である。モスラとは、蛾の姿をしたあの怪獣のことである。ザ・ピーナッツが唄った主題歌を思い出す人も多いであろう。

ところで、この本の第一章におそらくは知らない人の方が多いのではと思われる話が書かれている。
私もこの本を読んで初めて知り、少なからず驚いたのだが、モスラの原作小説を執筆したのは、その当時、1961年頃には、すでに純文学作家として名を成していた中村真一郎福永武彦堀田善衛の3人であった。

その意外性に驚いた読者をさらに意外な世界へとこの本は導いていく。例えば、「モスラ
のモデルとなったのはカイコ蛾であるが、その理由を、当時、曲がり角にあった養蚕業とも関連があるという。さらに、モスラの故郷、インファント島と日本人が持っていた南方幻想、ザ・ピーナッツの主題歌の歌詞が実はインドネシア語であったこと、なぜモスラ小河内ダムから出現したのか、そして、モスラが発する平和主義へのメッセージなど、これらの謎を解いていくことによって太古から60年安保問題直後までの日本の様々な社会、文化状況が織り込まれていることがわかる。

著者、小野俊太郎氏はこの本の208ページで「怪獣映画とは、人間と怪物のあいだのつながりをめぐるテーマを示すだけではなく、映画の成り立ちとして、怪獣パートが暴走したり、人間中心の本編が独自の意味づけをして物語に矛盾や対立を抱えがちなジャンルなのだ」
と述べている。

原作と映画の違いもさることながら、それだけ様々な問題が投影されているからなのであろう。怪獣映画とは決して子供たちのためだけではない、大人も色々と考えさせられる一つの文化である。この本によって、怪獣映画の位置づけも大きく変わる、そんな予感をさせる力作である。
(この記事はツカサネット新聞に掲載されたものです)
本の博物館館長代理・菊池道人

他に
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